小山珠美

私は看護師として38年間仕事を続けながら、「食事介助」を追求してきました。とりわけ口から食物を食べることが難しくなった患者さん、もしくは「食べられない」と医師に診断された患者さんに、さまざまな方法で食べられるようにアプローチをしてきました。これまでおおよそ9000人ほどの患者さんの食事介助を行ってきましたが、その中で感じたのは、人が健康で幸せに過ごせるかどうかは「食べること」にかかっているということです。しかし、いまのままでは、多くの人が将来的に「食べる喜び」を奪われることになるという危機感を抱いています。 その理由は、第一に「食べること」そのものが医療の現場で軽視されているということ。第二に、患者さんやご家族が食べることを希望しても、正しい食事介助のスキルをもった人材が足りないということです。今後、超高齢化社会が深刻化していく前に、なんとしてもその問題を解決しなくてはなりません。 そのためには、医療従事者の意識改革が必要なのはもちろんですが、患者さんやご家族、そして一般のかたがたが現状を知り、行動を起こすことも重要です。なぜなら、自分自身を守るのは自分、大事な家族(患者さん)を守るのも自分だからです。 人はいつ何時「食べること」を失うかわかりません。高齢者でなくても、突然の事故や病気で食べる喜びを奪われることもあります。でも、そこに「食べることに挑める医療」があれば、多くの患者さんが救われることになります。 食べることは、命の根幹です。生きる喜びであり、尊厳されるべき命の営みです。誰もが、最後のときまで食を楽しむ権利があります。ですから、患者さんのご家族には希望を失わず、あきらめないでほしいと思います。そして医療・福祉従事者には食べることの可能性を追求する姿勢を忘れないで実践してほしいのです。